児童相談所問題

福祉社会学会発表

「児童相談所問題とオランダの児童虐待防止制度」水岡不二雄
2017年5月28日


公開:2017年4月30日、更新:----年--月--日

1. 第15回福祉社会学会大会

 第15回福祉社会学会大会が、2017年5月27日(土)~28日(日)に、日本社会事業大学(東京都清瀬市竹丘3-1-30)にて行われます。その第2日目、5月28日(日)午前の第4部会において、水岡不二雄・一橋大学名誉教授が「児童相談所問題とオランダの児童虐待防止制度」について発表を行ないます。

 

 プログラムより、関係個所を転載します。

 


第15回福祉社会学会大会プログラム(速報版)

 

開催校:日本社会事業大学(東京都清瀬市竹丘3-1-30)

 

大会参加費 …… 一般:事前振込3,000円、当日5,000円、 学生:事前振込1,000円、当日3,000円

懇親会費 …… 一般:事前振込4,000円、当日5,000円、 学生:事前振込1,000円、当日3,000円

お弁当(2日目) …… 1,000円

 

第2日目、2017年5月28日(日)


9:00 受付開始・1階ロビー

9:30~12:00 自由報告

第4部会 子供・女性(C203)

 

司会:土屋敦(徳島大学)

1. メンタリングと女性管理職のwell-beingとの関連性 榊原圭子(東洋大学)
2. 少子化対策は未婚に有効か?Beckere結婚市場理論に基ずく図解分析の試み 神山秀樹(帝京大学)
3. 児童相談所からみた里親委託の課題-職員へのインタビュー調査を通じて- 藤間公太(国立社会保障人口問題研究所)
4. 児童相談所問題とオランダの虐待防止制度-母娘オランダ亡命事件にふれて- 水岡不二雄(一橋大学)

2. 「児童相談所問題とオランダの児童虐待防止制度」発表要旨


児童相談所問題とオランダの児童虐待防止制度

--母娘オランダ亡命事件にふれて--

 

水岡不二雄(一橋大学)

 

1. 児童相談所(児相)問題と児相利権:

 

 2000年に児童虐待防止法が制定されて以来、我が国では厚労省管轄下で児相権限の強化と予算規模拡大が継続的に行われてきた。その強権の問題性は、上野加代子氏ら(2003)が先駆的に指摘してきたところであり、特定の育児思想受け入れを「一時保護」の行政権力を背景に市民に強要し、市民の人権と家族の自治を児相が著しく侵害している事実は、近年市民に認識されて「児相問題」として広く関心を集めるに至った。Wikipediaの「児童相談所」を参照すると、「低い専門性」「憲法、子どもの権利条約、民法を蹂躙した『一時保護』」「児相保護所内で行なわれる激しい児童虐待」「長期に亘る「保護」による家族破壊、児童養護施設との癒着による施設措置」「凶悪虐待事案の放置」等が、児相問題の典型的現象として挙げられている。こうした児虐行政を支える予算は年々ほぼ等差級数的に増額されており、その背景に、古賀茂明氏(2013)が指摘する利権の復活、すなわち厚労省官僚・児相を運営する自治体の権限拡大、ならびに小林美智子氏が指摘する、閉鎖寸前だった児童養護施設の経営維持という「東洋型ネオリベラリズム」の利権追求という構造的要因をみてとることができる。

 

2. 子どもの権利条約等に多数違反するわが国の児相行政:

 

 我が国の児相行政は、子どもの権利条約、児童の代替的養護に関する指針等に数多く違反している。例えば、 ①司法が全く関与しない「一時保護」(第9条違反)(篠原(2015))、②長期にわたる児童の人身拘束および面会禁止処分による家族破壊(37条ならびに前文違反)、③有害な向精神薬投与(第24条違反)、④代替的養護が「提供者の…経済的目標を達することを主な目的」として実施されていること(国連「児童の代替的養護に関する指針」第20条違反)、等である。

 

 国連「子どもの権利委員会」は既に児相による人権侵害に関心を抱き、2010年、日本に対する最終見解において「学校において行動面での期待を満たさない児童が,児童相談所に送致されている」(62段落)など、児相が棄児に悪用されている事実を具体的に指摘したうえ、日本政府に「児童相談所のシステム及びその作業方法に関し…独立した調査を委託し,次回の定期報告にこの調査結果についての情報を含める」(63段落)ことを勧告した。だが、厚労省はその実施を全く怠っている。

 

3. 母娘オランダ亡命事件

 

 このような問題をはらむ児相行政の軛から逃れるため、2008年10月、長崎県の児童養護施設に福岡高裁の28条申立認容により施設措置されていた娘を、その母親が反児相ボランティア組織の力を借りて救出し、オランダに亡命する事件が起こった。日本の警察がInterpol経由でこの母親を国際手配したため、娘はアムステルダムの空港到着後すぐ保護され、オランダの児虐法制により再度審判がなされた。その結果、オランダの裁判所は家族再統合を認め、母娘はオランダで共同生活を再開できることとなった。児相問題研究(南出、水岡(2016)など)で言及されるこの母娘オランダ亡命事件は、同一事案が、日本と児童虐待防止政策の先進国であるオランダとでどのように異なって判断され、人権がどう考慮されたかを示す、貴重な国際比較事例を提供している。

 

4. オランダの児虐制度

 

 オランダでは通告が義務化されておらず、通告者には虚偽通告をしない等の規範が課せられて、制度悪用に歯止めがかけられている。通告受付機関として、全国26 箇所に自治体の機関「安全の家」があり、虐待予防啓発機能ももつが「一時保護」権限はないので、親は安心して育児相談に赴ける。児虐調査は、長年の経験を持つ熟練の専門職員が担当し、判断は、過去の虐待ではなく、現在児童が虐待を受ける危険を規準になされる。亡命した日本人母娘は、この規準により家族再統合が認められた。

 

 事案が通告された場合、安全の家は親と面談し、調査に基づき養育改善を粘り強く求める。しかし任意の話合いで虐待が収まらないと判断された場合、国の機関「児童保護委員会」に事案があげられ、司法手続が始まる。それに先立ち、親に再考を促す最後の機会として,「少年保護交渉」を挟むこともある。児童保護委員会の審判に親は弁護士等を付けることができ、児童保護委員会に親側弁護士を付けさせる要求をする権利もある。児童保護委員会は、その判断に基づき、家庭裁判所に申立を行なう。

 

 緊急性が高い事案では、この手続中であっても、家裁決定の執行機能を持つ半官半民の機関「少年援護所」が児童を家庭から切り離すこともある。だがいかなる場合も例外なく、司法当局の事前裁可が必要である。欧州では、旧ユーゴ諸国等に、日本の児相に相当する行政機関の判断のみで児童を人身拘束(保護)できる制度があった(UNICEF(2008))が、これら諸国は明示的に子どもの権利条約第9条につき国連に留保を表明していた。留保も表明せず、行政長の判断だけで児童の人身拘束を繰り返す異常な「先進国」は、世界中で日本だけである。家裁決定によって保護される場合でも、通信は遮断されず、面会も段階的に許される。そして、少年援護所が、児童の様子を定期的に親に報告する。このように、子どもの権利条約前文がいう家族の絆が、オランダでは保護中も常に尊重されている。面会通信全てを遮断し、社会的養護用の「人工的孤児」を生産する日本のごとき人権蹂躙はない。

 

 家裁が下す審判の選択肢には、施設措置・里親委託もあるが、特に「家族監督命令(OTS)」が重要である。これは、家族再統合を認めつつ、虐待が関わった養育の特定分野について後見人をつけ、その部分に関してのみ親権が制限されて、親は後見人の指示に従って養育をなす法的義務を負うものである。これにより、家族再統合が最長で1 年以内に実現すると同時に、養育は家計によってなされるか

ら、財政支出も効率化される。この亡命した母娘にも、OTS が付けられた可能性がある。

 

 このように、オランダの制度は、日本の児相に相当する機関が分散されて権力集中と恣意的判断の弊害が防止され、それぞれに文字通りの専門家が配置され、さらに早期の家族再統合により、人権の保障、行政成果向上と財政効率化が図られている。

 

5. 結 語

 

 電話189で全国に被せられた密告の網、「拉致」と言われるに至った恣意的人身拘束と虐待ある収容所空間への封じ込め、それによる官許の育児思想の強要、精神医学の悪用—これら一揃いを手にした現代日本の児相権力は、「福祉」の建前と裏腹に、スターリン統治下のソ連を彷彿させる全体主義の靴音を響かせている。その抜本的な構造改革と財政効率化は、日本が民主主義的市民社会であろうとする限り不可欠の急務である。その新たな制度設計に、オランダの制度は極めて重要な目標となろう。

 

6. 参考文献

 

上野加代子、野村知二『“児童虐待”の構築―捕獲される家族』世界思想社、2003 年。

古賀茂明『利権の復活』PHP、2013 年。

篠原拓也「児童相談所の権限行使に対する抑止力確保の必要性」『社会福祉学』56 巻2 号、2015 年。

南出喜久治、水岡不二雄『児相利権』八朔社、2016 年、第6 章。

Rachel Hodgkin and Peter Newell, Implementation Handbook for the Convention on the Rights of the Child, UNICEF, 2008, Articles 9, 37.


3. ダウンロード(PDFファイル)

ダウンロード
第15回福祉社会学会大会プログラム(速報版)
2017年5月27日(土)~28日(日)、日本社会事業大学(東京都清瀬市竹丘3-1-30)
第15回福祉社会学会大会プログラム.pdf
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第15回福祉社会学会-発表要旨
第2日目(5月28日)午前、第4部会
児童相談所問題とオランダの児童虐待防止制度、—母娘オランダ亡命事件にふれて—、水岡不二雄(一橋大学名誉教授)
第15回福祉社会学会-発表要旨.pdf
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